少子高齢化による生産年齢人口の減少などを背景に、日本市場は縮小の一途をたどっています。生き残りをかける日本企業が活路を見いだすには、国外市場への進出や生産拠点の国外移転といったグローバル化が欠かせません。
そこで、求められているのが海外志向の強いグローバル人材です。目的を持った留学をしてさまざまな経験を積む人は、過去の留学経験から企業に響くアピールを行えるため、転職を成功させることができます。
この記事では、留学経験者の強みや留学の種類のほか、留学経験を活かして転職する方法などについて紹介します。
留学経験者数の動向
独立行政法人日本学生支援機構(JASSO)が調査している「日本人学生留学状況調査結果」を見てみると、2019年度に留学した日本人学生は10万7,346人に上りました。親の転勤に伴う留学や、スポーツ・芸術などの技術を高めるための留学、さらには社会人留学などを含めると、この数値以上の人が海外のさまざまな国で学んでいたと考えられます。
ただ、2020年春から感染拡大した新型コロナウイルス感染症による渡航制限により、自由な海外渡航はかなわなくなりました。短期・長期の留学もストップし、JASSOの調査によれば、2021年度の日本人留学生の数は1,487人まで激減しています。今後は少しずつ、回復基調に入っていくでしょう。
留学経験者の多くは留学と無関係の仕事をしている
これまでに留学をした経験がある人は、その経験を仕事に活かせているのでしょうか。
実際には、留学経験者の多くが「留学の経験を仕事に活かせてはいない」「転職活動で留学経験が役立ったとはいえない」と感じているようです。
長期留学経験者の社会人を対象に、ディーサイド留学情報センターが行った「留学×就職・転職活動に関する調査」(2022年1月)によると、「留学経験が就職・転職活動の際にアピールポイントになった」と答えた人が全体の8割近くを占める一方、「現在、留学経験を活かした仕事をしているか」という質問には、約半数が「いいえ」と回答しています。
理由としては、留学時期と日本の就職活動の時期が重なることが挙げられます。海外留学する積極性などを評価されたと感じる反面、留学経験そのものがビジネスにつながるには至らなかったのでしょう。
留学経験者が持つ強み
企業のグローバル化が進む中、主体的に異文化に飛び込んで学んだ経験がある留学経験者は理想の人材です。しかし、留学経験を転職活動に活かしにくいのは、留学経験者が認識している力と、企業が留学経験者に求める力にずれがあり、効果的なアピールができていないからです。
ここでは、留学経験者が持っている強みについて見ていきましょう。
英語力
留学経験者の最大の強みは、なんといっても英語力です。ビジネスの中で英語を使用する頻度が高く、ネイティブスピーカーとの質の高い会話が求められる日系グローバル企業や外資系企業などでは、「生きた英語」が話せる人は高く評価される傾向があります。
こうした企業では、就職や転職の際の採用基準、および昇進基準に一定の語学力を求めるケースが多く、TOEICスコアなどで具体的に示している場合もあります。
国際感覚
昨今、日本国内でもダイバーシティが推進され、年齢や性別、人種、宗教、嗜好などにかかわらず、意欲ある人を採用する企業が増えています。このような「自分とは異なる属性の人」の生き方や考え方を尊重し、共に働くには、多様性を認める広い視野が欠かせません。
海外留学を通じて、さまざまな文化や習慣の違いにふれてきた人は、違いを当たり前のものとして受け入れる国際感覚を持っているはずです。
コミュニケーション能力
海外留学経験によって、コミュニケーション能力も磨かれます。母国語以外の言語で何とかして自分の意思を伝え、相手の意思をくみ取ろうとするからです。
また、日本語は共通の価値観や感覚への依存が大きく、表情の変化や声のトーンから行間を読む「ハイコンテクスト文化」と呼ばれるコミュニケーションスタイル。一方、英語圏は曖昧さのない言語のみでコミュニケーションが行われる、「ローコンテクスト文化」です。相手の気持ちを尊重しつつ、自分の意見をはっきり言葉にして伝える力は、文化の違う国に身を置いてこそ身につくものといえます。
問題解決力
海外留学には、トラブルやアクシデントが付き物。文化も考え方も、トラブルへの対処方法も異なる中で、母国語ではない言語を駆使して解決策を模索するプロセスは、確実に問題解決能力の強化に有効です。
海外での経験を重ねるうちに、どんな問題が起きても冷静に受け止め、最善の解決策を見いだせるようになるでしょう。この問題解決力は、ビジネス上のトラブルに臨機応変に対応する上でも役立ちます。
バイタリティ
海外留学中は、初めての経験ばかりです。そもそも言語の違う国で生活すること自体、大きな挑戦といえるでしょう。困難に思えるハードルを一つひとつ乗り越えていくことで、仕事においても困難や障害をみずからの力で乗り越えていくバイタリティが身につきます。
企業が求める留学経験で得た力とは?
文部科学省の官民協働海外留学支援制度「トビタテ!留学JAPAN」が2017年6月に実施した「就職活動と留学に関する意識調査」によれば、62.1%もの企業の採用担当者が「留学経験のある人材を積極的に採用したい」と答えています。
しかし、実際の採用現場において、単に「留学経験がある」と応募書類に書いたり面接で話したりしただけでは、人事担当者の心を動かすことはできません。「文化の違いがわかった」「英語力が上がった」など、留学経験ならではの学びの内容が伝わらないアピールも同様です。
重要なのは、留学によって得た経験やスキルを、どうビジネスにつなげていくかを論理的に伝えること。企業は、中途採用者の留学の思い出を聞きたいのではなく、経験やスキルがどのように自社のビジネスに生きるのかを知りたいはず。中途採用である以上、できるだけ即戦力として活躍してほしいと考えている企業が多いのも事実です。
企業側の意向を踏まえて、面接では「留学の経験と成果をどのようにビジネスに活かしていくか」を伝えることを意識してください。
留学の種類
留学にはさまざまな種類があります。ここでは、留学の種類と内容のほか、履歴書への記入の仕方について解説します。
正規留学
海外の4年制大学・大学院へと入学し、現地学生と学位取得を目指すための勉強を「正規留学」といいます。基本的には日本で大学・大学院に通うのと同じで、必要単位を取得して卒業すれば「学士」または「修士」を取得できます。
正規留学は学歴として、下記のとおり履歴書に記入します。
<記入例>
令和◯年◯月 ××国◯◯大学◯◯学部 留学
令和◯年◯月 ××国◯◯大学◯◯学部 卒業
自己PR欄には、留学で得た学びなどを記載しましょう。
交換留学
交換留学は、日本の大学に進学して籍を置いた上で、在学中の大学が学術交流協定を締結している海外の大学に1年間、または1学期のあいだ留学するプログラムです。滞在先の大学で取得した単位は、日本の大学に還元されるため、休学の必要はありません。
交換留学の場合は、履歴書の学歴欄に下記のとおり記入しましょう。
<記入例>
令和◯年◯月 ◯◯大学◯◯学部◯◯学科 入学
令和◯年◯月 令和◯年◯月まで✕✕国◯◯大学◯◯学部に交換留学
令和◯年◯月 ◯◯大学◯◯学部◯◯学科 卒業
正規留学と同じく、自己PR欄を使って留学で得た学びの内容なども伝えてください。
語学留学、ワーキングホリデー
語学留学は、海外にある語学学校に通うこと。その先の可能性として、大学・大学院への進学があるイメージです。大学・大学院が設けている留学制度、交換留学制度の選考基準に学力が達していない場合、休学して留学するケースもあります。
一方のワーキングホリデーは、日本と協定を結んでいる国において、何らかの仕事を得て滞在資金を補いながら最長1年間(イギリスは2年間)暮らせる制度。社会人になってからこの制度を利用して、海外生活を体験する人もいます。
注意したいのは、語学留学とワーキングホリデーは学歴にはあたらないということ。履歴書の自己PR欄のみに記入しましょう。
海外インターンシップ
海外インターンシップは、在学中の大学生や社会人が、長期休みを利用して1週間程度の短期間で海外企業においてビジネス体験を積むプログラムです。ひとつの組織の一員として、現場でビジネスを体験できる貴重な機会であり、ビジネスシーンで使われる専門的な英語にふれられるチャンスでもあります。
海外インターンシップの経験も、履歴書の自己PR欄に記入します。
海外ボランティア
海外ボランティアは、NGOが行っている国際協力の現場で、介護、災害支援、環境保護などの課題解決に取り組むものです。みずからの視野を広げ、みずからの手で国際問題に貢献できるやりがいのある仕事です。
ただし、渡航費や滞在費は自費となる場合が一般的で、それが高額になることも。就学中・就業中だと、行ける場所や期間が限定される点も注意が必要です。
海外ボランティアの経験についても、履歴書の自己PR欄を利用して記入してください。
留学経験を履歴書でアピールする方法
実際の転職活動において留学経験をアピールできるシーンには、書類選考と面接があります。いわゆる、学歴として応募書類に記載できるのは、1年以上の「正規留学」と「交換留学」に限られますが、ほかの留学経験も学歴以外の欄を使えばうまくアピールすることができます。
どんな留学経験についても、アピールの仕方にはビジネス視点が必要です。履歴書には「留学前に掲げた目標と実績」を数値も交えて記入し、企業が求める専門性を身につけていること、ビジネスシーンで十分に通用する語学力を持っていることを説明してください。
留学で得た経験や実績を、採用されてどう活かしていくのかについても、書面上でわかりやすく説明できるとなお良いでしょう。
留学経験が活かせる企業
留学経験は、さまざまな仕事に活かすことができます。ここでは、留学経験を活かしやすいタイプの企業をご紹介しますので、ぜひ参考にしてみてください。
外資系企業
外資系企業は、「海外企業の100%子会社」「海外企業と日系企業が共同出資した会社」「海外企業の傘下に入った元日系企業」の3つに分けられ、日系企業に比べると英語を使う機会は多くなります。
外資系企業では、入社段階ではそれほど高い英語力がいらない場合でも、キャリアアップするにつれて専門的なビジネスレベルの英語力が求められるようになります。公用語が英語の企業で働く人や、将来的にマネージャー以上のポジションを目指す人にとっては、留学で培った英語力をさらに磨いておくとキャリアアップしやすくなるはず。
同僚や上司が外国人の場合も多いので、留学で多様な文化にふれた経験も存分に活かせる環境です。
日系グローバル企業
日本で設立されて、世界規模で事業展開する企業を日系グローバル企業といいます。こうした企業は、海外出張や海外駐在の機会が多いため、留学で培った英語力やコミュニケーション能力を活かし、ビジネスを推進できる人が重宝されます。留学経験者には向いている仕事といえるでしょう。
スタートアップ企業・ベンチャー企業
社会課題に革新的アイディアや技術で挑むスタートアップ企業や、新たな商品・サービスを生み出すベンチャー企業には、IT系企業が多い傾向があります。
IT系では高いレベルで活躍できる優秀な人材が国内に不足していることから、外国人エンジニアの採用を進めている企業も少なくありません。海外留学経験と英語力を生かして、社内コミュニケーションの懸け橋として活躍するチャンスがあります。
留学経験を活かせる仕事に就くには?
留学経験や、留学によって得たスキルを活かせる求人を探すには、いくつかの方法があります。続いては、留学経験を活かす仕事の探し方について見ていきましょう。
ビジネス特化型SNS「LinkedIn」に登録する
「LinkedIn(リンクトイン)」は、アメリカ・シリコンバレーの企業であるLinkedInが提供するSNSで、世界では8億3,000万人以上(2022年4月時点)が利用するビジネス特化型SNSです。転職活動やリクルーティング、人脈開拓など、ビジネスに有効な関係の構築を目的としているユーザーが多く、そのほとんどが実名・顔出しで登録しているのが特徴です。
海外では転職活動の代表的なツールとして利用されてきましたが、近年は日本でもユーザーが増えつつあります。日系グローバル企業や外資系企業が、「会社ページ(キャリアページ)」に求人情報を掲載し応募を受け付けています。留学経験を活かした転職活動には非常に有効なので、ぜひ登録してみてください。
外資系企業などに強い転職エージェントを利用する
転職エージェントの中には、日系グローバル企業や外資系企業に特に強みを持つエージェントが存在します。こうした転職エージェントは、バイリンガルの留学経験の活かし方や、その力を活かせる企業、企業の採用意欲を高める留学経験のアピール方法などを熟知しており、応募書類の作成や面接の合格率を高めるアドバイスをしてくれるはず。
「留学経験をどうアピールしていいかわからない」「ビジネスにつながるアピールの仕方がわからない」という場合は、こうしたプロへの相談が有効です。
国際協力NGOなどに参画する
あなたが途上国で貧困に苦しむ子供たちの教育支援など、社会貢献目的で海外留学をしていたり、留学時にそうした活動に影響を受けたりした場合は、関連した活動を行う国際協力NGOや国際機関などへ参画するのもひとつの手です。
海外留学で学んだことと携わる仕事内容がリンクしているので、アピールもしやすいでしょう。まずは、該当機関のWEBサイトで、求められるスキルや経験をチェックしてみることをおすすめします。
留学経験を活かせる仕事に転職しよう
留学で得られるスキルは、英語力をはじめ多岐にわたります。身につけた能力を発揮できる職場を探し、留学経験を活かした転職を成功させましょう。留学経験が活きやすい外資系企業やグローバル企業への転職を成功させるなら、外資系に強い転職エージェントの利用がおすすめです。
大手外資系企業や日系グローバル企業との太いパイプを持つRGFプロフェッショナルリクルートメントジャパンでは、経験豊富なコンサルタントが、あなたの転職成功をサポートしています。まずは、お気軽にお問い合わせください。
グローバル企業で働くことは、グローバルに働きたい人や語学力を生かして働きたい人だけでなく、自分の可能性やワークライフバランスを求める多くの方にとって、多くのメリットがあります。
RGFプロフェッショナルリクルートメントジャパンでは、外資系・日系グローバル企業の案件を中心に、国内外のさまざまな優良企業の採用活動を支援しています。そのため、それぞれの方が求める最適なキャリアの選択肢をご紹介可能です。
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