2022年末から、アメリカの大手テック企業では大量のレイオフが相次ぎました。レイオフは人員削減のための解雇手法の一種ですが、日本企業で働く人にとってはあまり聞き慣れないものかもしれません。レイオフとはどのようなときに、どのような目的で行われるのか、また、ほかの人員整理の手法と何が違うのでしょうか。
これから外資系企業を目指す人や、現在すでに外資系企業勤務でレイオフを言い渡されたときの対応方法について知っておきたい人のために、レイオフの概要と対処法について解説します。
レイオフとは企業都合による一時的な解雇のこと
レイオフは、景気の変動や不況によって企業の業績が悪化した際、企業側の都合によって行われる一時解雇のことをいいます。主にアメリカやカナダなどの北米企業でよく用いられる人員整理手法のひとつで、業績回復後の再雇用を前提としている点が大きな特徴です。
一般的に、勤続年数の短い人からレイオフの対象となり、再雇用の際には勤続年数の長い人から順に選ばれます。これは、昇進・解雇・休職・配置転換・再雇用といった労働条件の割り当てに際し、勤続年数の長い従業員を優先的に扱う「先任権制度」と呼ばれる欧米特有の制度によるものといわれています。
なお、日本企業ではレイオフが行われることはあまりありません。これは、労働契約法第16条で解雇に関するルールが定められているからです。
<労働契約法第16条>
解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする。
つまり、解雇は使用者がいつでも自由に行えるというわけではありません。客観的に見て合理的な理由がなく、社会一般の常識から見ても認めることが難しいというような場合は、労働者をやめさせることはできません。
さらに、労働基準法、男女雇用機会均等法などでも解雇は規制されています。業務を特定せずに採用する「メンバーシップ型雇用」が多い日本では労働者保護の意識が高く、部署や業務の消滅程度では解雇が難しいことも、レイオフが日本に浸透していない理由のひとつといえます。
日本企業で行われている解雇の種類
日本企業における解雇には、業務能力不足や法令違反などを理由にしたもののほか、人件費削減を目的とした、いわゆるリストラに該当するものがあります。それぞれどのような解雇なのか、その特徴や具体例のほか、レイオフとの違いについて解説します。
能力不足や命令違反などの正当な理由による「普通解雇」
「普通解雇」は、企業側から従業員に通達して労働契約を終了させることです。下記のような場合は、普通解雇が認められる可能性があります。
<普通解雇にあたる例>
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何度も指導し、研修なども実施したが、著しく業務能力が不足している
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協調性に欠け、チームとしての和を乱す。何度も注意したが改善されない
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長期的な入院など、病気によって業務に支障をきたす
普通解雇をする際は、何度も注意されている、指導を受けているのに改善の見込みがないなど客観的な合理性があり、社会通念に照らし合わせて問題ないかを十分検討する必要があります。
なお、病気を理由にした解雇は、会社側が就業規則にその旨を明示していることと、解雇日の30日以上前に本人に解雇予告をしていなければなりません。
規律違反や法令違反など重大な問題への懲罰的な「懲戒解雇」
「懲戒解雇」は、従業員が規律違反や法律違反を起こした際などに行われる処分のことです。会社が従業員に対して行う懲罰では最も重く、即日離職を余儀なくされるほか、離職票にも懲戒解雇であることが記されるため、再就職のハードルは高くなります。
例えば、下記のようなケースが懲戒解雇の対象です。
<懲戒解雇にあたる例>
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無断欠勤を繰り返し、業務の停滞を招くことが何度もあった
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部下へのパワハラやセクハラ
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会社の金銭を横領した
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取引先から謝礼や賄賂を受け取っていた
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プライベートで犯罪行為を行い逮捕された
企業の経営悪化・再建を理由に人員を削減する「整理解雇」
日本において、普通解雇・懲戒解雇と並ぶ解雇の種類の3つ目が「整理解雇」、いわゆるリストラです。
整理解雇は、経営状態が悪化した場合、あるいは経営の合理化を図るために人員を削減する解雇のことをいいます。従業員には何ひとつ非がなくても、一方的に解雇を言い渡される場合がある点が、普通解雇とは異なります。
整理解雇を行うには、下記の条件を満たす必要があります。
<整理解雇にあたる例>
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経営上、人員を削減する必要性がある
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あらゆる経費削減手段をすでに実行し、解雇を回避する努力をし尽くした
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解雇対象者の選定に妥当性がある
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解雇対象者と十分な協議をし、納得を得るための努力を尽くしている
なお、レイオフは再雇用を前提としていますが、整理解雇には再雇用がありません。
解雇ではなく「一時帰休」という人件費の削減方法も
経営難に陥ったときの人件費の削減方法に、「一時帰休」があります。一時帰休は、業務縮小や売上の低下で余剰人員が出た際に、一次的に休業させることによって人件費を軽減してしのぐ手法です。
状況が落ち着いた後の再雇用を前提としている点はレイオフと同じですが、一次的とはいえ雇用契約を解消するレイオフに対して、一時帰休は休業扱いで雇用契約が維持される点に違いがあります。
一時帰休の場合、企業は対象となった従業員に対して、「平均賃金の60%以上の賃金」を支払わなくてはなりません。
レイオフが行われる理由
経営不振に陥った企業は、無駄なコストを削減し、利益を向上させることができれば、経営の立て直しにつながります。不採算部門から撤退する、新規事業に取り組む、サービスや製品のターゲットの見直しを図るなど、さまざまな選択肢があるでしょう。
では、その中から、北米企業でレイオフを選ぶ企業が多いのはなぜなのでしょうか。理由は大きく3つあると考えられます。
人件費の削減
毎月発生する経費の中でも、人件費はほかの経費よりも金額が大きく、毎月固定で発生するため経営に与える影響は多大です。経営不振で真っ先に削減されるのが人件費といっても過言ではありません。
しかし、人件費を削減するために優秀な人材を解雇すれば、業績が回復した後の組織づくりが難しくなってしまいます。そこで、再雇用を前提としたレイオフが選択されることが多いのです。
レイオフであれば、解雇した従業員に給与を支払う必要がなく、浮いた人件費を業績回復のための取り組みに回すことができます。業績が上向いた際には、解雇した従業員を再雇用すればすぐに戦力を取り戻すことが可能です。
人材流出の抑制
レイオフの最大の理由ともいわれるのが人材流出の抑制です。一人の優秀な従業員を育成するには、相応の時間とお金がかかります。業績悪化で一度解雇してしまえば、それまでかけたコストはすべて無駄になるばかりか、業績回復後には再び膨大なコストをかけて人材を育成しなければなりません。加えて、手塩にかけて育成した人材が競合他社に転職し、自社の脅威になる可能性もあるのです。
その点、再雇用を前提としたレイオフであれば、優秀な人材の流出を防ぐことができます。
ノウハウ流出の防止
優秀な人材の流出に伴って、自社の重要な財産である経験値や技術、ノウハウなども流出する可能性があります。競合優位性を保つカギであるノウハウが他者に渡れば、業績回復後の再始動の大きな妨げになるでしょう。
目に見えない重要な企業資産を守るという観点からも、レイオフは有効な手段だといえます。
レイオフの従業員へのメリットとは?
レイオフの目的を見ると、企業側にのみメリットがあるように感じますが、実はそうではありません。ここでは、従業員側のメリットについてご紹介します。
転職が可能になる
レイオフは再雇用を前提としていますが、解雇であることには変わりありません。レイオフされた従業員は、これを機に転職活動をし、新たな道を切り拓くことができます。
「長年勤めて、業務がマンネリ化している」と感じていた人や、「もっとやりがいのある仕事を探したい」と漠然と考えていた人にとっては、レイオフが次のステップに進むきっかけになるかもしれません。
退職金や手当が出る
レイオフは、企業側の都合で行われる解雇です。そのため対象者には、収入が途絶えた期間をつなぐために退職金が一時金として支払われるケースも少なくありません。企業によりますが、事前にレイオフの実行を周知して応募を募り、応募者に一時金を支払う場合もあります。
海外のレイオフ事例
2022年から2023年にかけて、誰もが知るようなビッグネームの企業でも大規模なレイオフが実施されるというニュースが世界に衝撃を与えました。SNSでは「突然、会社のメールアカウントもSlackも使えなくなった」「いつもどおり出社してメンバーにチャットしようとしたら、相手のアカウントが消えていた」といった当事者たちの悲痛な投稿も飛び交い、話題を呼びました。
ここからは、海外企業でのレイオフの事例をご紹介します。
アメリカの大手テック企業
IT化の進展とともに躍進し、リーマンショック後の経済を支えてきたアメリカの大手テック企業各社で、レイオフや採用凍結が相次いでいます。大手プラットフォーマー各社の株価は、2023年1月9日までの1年間で大幅に下落しました。
大手テック企業でレイオフが増加している背景にはさまざまな理由がありますが、主にコロナ禍で発生したIT特需が終焉したことと、世界的なインフレ抑制のための金利引き上げによる景気後退などを契機に、多くの企業がレイオフを余儀なくされたことと考えられます。
レイオフの規模は1,000人単位から1万人単位までさまざまですが、全体で2万人規模をレイオフする企業も出てきているほか、中小企業でのレイオフも相次いでいます。
ソフトウェア開発・販売企業
ある大手ソフトウェア開発・販売企業では、より良いサービスを提供するための組織改編として、アメリカ以外で働いている人材を中心に約5,000人をレイオフ。営業部門をクラウドサービスに代替し、本業以外の関連業務からは手を引くことも合わせて発表しました。
クラウド型ドキュメント管理システム提供企業
世界を代表するクラウド型ドキュメント管理システム提供企業は、小規模で小回りのきくチームを目指して、2015年から数十人規模のレイオフを断続的に実行。根本的な製品の改良と、チューニングが行き届いていない事業からの撤退も進めています。
テクノロジー関連企業
2023年1月、アメリカのとある大手テクノロジー関連企業が、従業員の1.5%にあたる約3,900人のレイオフを発表。これは、2021年にスピンオフした企業や売却した事業の影響、およびIT関連サービスに対する支出の減少によるものです。
また、ロシアのウクライナ侵攻に伴い、ロシアでの事業を全停止していたこと、段階的な縮小を決めたことも影響しています。
金融系企業
テクノロジーセクターに続いて、レイオフ拡大の動きを見せたのが金融系の大手企業です。これは、インフレや景気減退に伴う投資銀行部門の業績落ち込みによって、コスト削減を迫られていることが大きな理由だと考えられます。
投資銀行業務が主力のとある金融大手では、純利益が前期比で3~5割程度減り、住宅ローンや資産管理分野もレイオフの対象となっています。2022年の終わりから2023年の初めにかけて、7,000人規模のレイオフが実行されました。
ここ数年の積極採用、および新型コロナウイルス感染症の影響下で、解雇を控えたところからの反転となっています。
レイオフを言い渡されたときはどうしたらいい?
日本で外資系企業に勤める人が、もしレイオフを言い渡されたら、どのように対応すれば良いのでしょうか。
基本的にレイオフの対象者は、限られたメンバー以外には当日まで知らされません。アメリカでは、ある日突然「明日から来なくて良い」といわれることもあります。優秀な人材であっても、ポジションが不要になることもありますし、企業の経営維持・成長に必要であれば、容赦なくレイオフされることも考えられます。日頃から、自分もいつレイオフされてもおかしくないことを念頭に置いて、万が一の際の対応を考えておくとよいでしょう。
ここからは、日本でレイオフを伝えられたときの具体的な対処法についてご紹介します。
レイオフを拒否し、撤回を求める
日本には、労働契約法第16条の解雇に関するルールがあります。レイオフの指示に納得できない場合や、整理解雇の条件を満たしていない場合には、「命令には応じられない」と伝えて撤回を求めましょう。
もし、退職を認める書類へのサインを求められたら、きっぱりと拒否することが大切です。ここで企業側が解雇の強行に踏み切った場合、解雇は無効であることを訴え、出社しなくて良いといわれた期間の賃金についても受け取る権利を主張すべきです。
なお、こうした不当解雇に関する問題は、専門家を交えて行わないと不利になってしまいます。正当な権利を失うことがないよう、早い段階で労働基準監督署や弁護士などに相談することをおすすめします。
退職条件を交渉する
「どうしても現職に残りたい」という熱意がない場合や、レイオフの撤回要求に抵抗がある場合は、自分に有利な退職条件を引き出すことに考えを移しましょう。
会社側は、退職勧奨する従業員を任意ですみやかに退職させられるよう、退職に応じることと引き換えに特別退職金、割増退職金などを支払う優遇措置を、「退職勧奨パッケージ」として提示することがあります。
退職後に有給で在職する期間の月給や有給買取額を含めてパッケージとするか、別途で支払うかは企業によって異なりますが、いずれにしても金額的な交渉の余地はあるため、安易に署名せず交渉のポイントを探りましょう。
退職勧奨パッケージには明確な決まりはなく、企業によってさまざまです。一般的には、賃金の3ヵ月分から1年6ヵ月分くらいまでの退職金が支払われることが多く、オプションとして下記に挙げるような項目の交渉が可能とされています。
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転職支援
レイオフ対象者が退職勧奨に応じてくれれば、関連会社を紹介する、または契約中のエージェントを利用できるようにするなど、企業側から申し出ることが多いオプションです。
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在籍期間延長
パッケージの金額の支給方法をカスタマイズして、半分を特別退職金、半分を在籍期間延長分の賃金として受給できることもあります。延長中は労務が免除されるため、「現職あり」の身分を維持したまま転職活動を行えます。
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会社都合退職にする
自己都合退職ではなく、会社都合退職にすることを確約します。会社都合退職には、国民健康保険料の減免や、失業給付金の早期支給などのメリットがあります。
転職エージェントに相談する
レイオフされた後、納得のいく交渉を経て退職することが決まったら、次に考えるべきは転職先です。早めに次の仕事を見つけたい場合は、豊富な求人を保有し、経験やスキルに合った転職先を見つけてくれる転職エージェントに登録しましょう。
外資系企業に強い転職エージェントなら、レイオフされたことを書類にどう記載するか、面接でどのように説明するべきかといった相談も可能です。
外資系企業のレイオフには、普段からの備えが肝心!
一般的には、レイオフされたからといってその日から一切の収入が途絶えるわけではなく、適切な補償を受けながら転職先を探すことができます。といっても、すぐに転職先が見つからなければ、貯金を切り崩す不安定な生活になりかねません。
外資系企業で働く以上、レイオフは常に起こりうるリスクと考え、普段から信頼できる転職エージェントを探しておくといいでしょう。日頃から情報収集しておくことで、万が一の際にも慌てずに転職先を検討することができます。
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